【善き羊飼い】

イエス・キリストのこと。〈善き牧者〉ともいい, 新約聖書迷える羊と牧者の比喩(ひゆ)による。

 

画題としては初期キリスト教美術に多く現れ,中央に牧者を置き周囲に羊の群を配した構図の絵や,小羊を背負う若者の像がつくられた。 羊飼い,特に小羊を背中に背負った羊飼いの像は,古代から季節の象徴として,あるいは徳の寓意像,来世の生活の理想像として用いられてきた。

 

キリスト教美術においては,『ルカによる福音書』15章3以下,『 ヨハネによる福音書』10章1以下,旧約聖書中の『詩篇』23編などにより,まずイエス・キリストによる救済の擬人化として取り上げられ,やがてイエスそのものをこの像で表すようになった。ローマのサン・カリスト地下教会にあるカタコンベ(3世紀中期), 石棺(聖マリア・アンティカ教会の石棺,270頃)にみられるのは前者であり,ラベンナのガッラ・プラキディア廟 のモザイク(5世紀中期)は後者の例である。

 

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