【モーセ】

モーセ像

(ミケランジェロ作)

モーセは、旧約聖書《ユダヤ教およびキリスト教の正典である。 また、イスラム教においてもその一部(モーセ五書、詩篇)が啓典とされている。「旧約聖書」という呼称は旧約の成就としての『新約聖書』を持つキリスト教の立場からのもので、ユダヤ教ではこれが唯一の「聖書」である。》の『出エジプト記』などに現れる紀元前13世紀ごろ活躍したとされる古代イスラエルの民族指導者である。

 

モーセの実在と出エジプトの物語の信憑性は、論理的矛盾、新たな考古学的証拠、歴史的証拠、 カナン文化における関連する起源神話などから考古学者およびエジプト学者、聖書批評学分野の専門家の間で疑問視されている。その他の歴史学者は、モーセに帰せられる伝記の詳細さとエジプトの背景は、青銅器時代の終わりに向かうカナン(地中海とヨルダン川・死海に挟まれた地域一帯の古代の地名)におけるヘブライ部族の統合に関わった歴史的、政治的、宗教的指導者が実在したことを暗示している、と擁護している。

 

旧約聖書には多くの神の言葉を預かる預言者があらわれるが、その中でもエジプトの奴隷であったイスラエル民族を救出し、 シナイ契約を神と結び、12部族を結集する律法を公布したモーセが最も有名であり、ユダヤ教の原点的存在となっている。

その教えがモーセ五書である。

 

旧約聖書の創世記、出エジプト記、民数記、レビ記、申命記をモーセ五書といい、ユダヤ教では、律法の書《トーラー》として 、最も基本的な正典とされている。それに続く、ヨシュア記、士師記などは、預言書や諸書として取り扱われている。 モーセ五書の中心は、シナイ契約《エジプトの奴隷からの解放の約束》。神がモーセを仲保者《神と人との間を仲裁・和解・媒介する者》として、 イスラエルの民との間に結ばれた契約を「シナイ契約」と呼ぶ。この契約の前提として、神がアブラハム《ユダヤ教・キリスト教・イスラム教を信じるいわゆる啓典の民の始祖。ノアの洪水後、神による人類救済の出発点として選ばれ祝福された最初の預言者。「信仰の父」とも呼ばれる。》と結んだという以下の契約が ある。以下の契約成就の条件として人間側の守るべき条項として「シナイ契約」が結ばれたのである。

 

「あなたが伏している地を、あなたとあなたの子孫とに与えよう。あなたの子孫は地のちりのように多くなって、西、東、北、南に 広がり、地の緒族はあなたと子孫とによって祝福を受けるであろう。私はあなたと共にいて、あなたがどこに行くにもあなたを守り、 あなたをこの地に連れ帰るであろう。」(創世記 28/13-15) 篤実なユダヤ教徒が現在のイスラエルの領土(占領地を含む)に固執するのは上記のような契約が一つの原因ともいわれている。

 

出エジプト(イスラエル民族のエジプト脱出)の話は非常に壮大な話である。 族長ヤコブ《旧約聖書の創世記に登場するヘブライ人の族長。アブラハムの孫で双子の兄弟の弟、別名をイスラエル といい、イスラエルの民すなわちユダヤ人はみなヤコブの子孫を称する。》の時代に、その子らはエジプトに移住するようになり、やがてエジプトの王朝の交替により、彼らの子孫はエジプトの ファラオの奴隷として種々の建設事業の苦役に従事させられるようになる。

 

それにもかかわらず、イスラエルは増大して、 イスラエル民族を構成するようになった。王は、このままヘブライの民が増え続け、やがて支配しきれなくなることを恐れ 「生まれてきた男の子はすべてナイル河に投げ捨てよ」との命を下した。そんな時、1人の美しい男の子が生まれた。 母親はその赤子を殺すに忍びなく、一計を案じ、籠に入れてナイル河に流す。男の子を乗せた籠は、やがて、 宮殿の水浴び場へ流れ着いた。それを、女王が拾い上げ、モーセと名づけて自分の子として育てる。

 

ファラオの迫害を受けたイスラエル民族の苦しみの叫びが天に届き、契約の神は彼らを顧みられて、モーセを遣わし、彼を用いてエジプトの奴隷状態から 救出にあたる。これが出エジプト、エジプト脱出の歴史的事件である。

 

エジプトから民を率いて脱出したモーセは40年にわたって荒野をさまよったが、約束の土地《「エジプトの川」からユーフラテス川までの領域とされ(創世記15:18-21、出エジプト記23:31)》を目前にして世を去ったという。

 

[参考文献]

・浅野典夫『ものがたり宗教史』筑摩書房<ちくまプリマー新書>

・ジークムント・フロイト著、渡辺哲夫訳、『モーセと一神教』、ちくま学芸文庫

 



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